第2趾骨複雑骨折の創外固定 

乗馬の後ろ足の第2趾骨が複雑骨折した。この部位は競走馬ではまず見られない。
乗馬特有の部位の骨折。ポロ競技馬にも多い後ろ足をひねる運動で起こる骨折だ。

この骨折では、バラバラすぎて第1、第2趾骨のプレートによる関節固定はちょっと無理。無理してやると蹄関節にズレが生じて痛みの原因になる。
1年ぶりの創外固定をした。今回は500kg以上の体重が心配された。案の定・・・・・。

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第2趾骨の外側はバラバラになっている。

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ピンを挿入するには、結構力が必要。2本とも一人でやるとヘロヘロ。足を持っている方が楽。

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やっとこさ2本のピンが入る。

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ピンをキャスト、パテで連結固定して完成。さあ、これからが大変!

ウマの歯の脱臼

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6歳の乗馬。あごが折れたと連絡が来た。大体、歯が折れたとの連絡のほとんどは下顎骨折のケースなのだが、今回、顎は折れていなかった。
顎が丈夫で折れなかったらしい?
しかしひどいね、これは! 前歯3本が脱臼、反転した。

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脱臼した歯を元に戻すのに、反転していたので、一度引っ張って元に戻そうとすると、なんと歯が抜けてしまった。歯のナンバーリングでいえば302,303の前歯である。
あわてて?元に戻してみるが、元には完全に戻らないので、たたいて入れてみたが少し出っぱる。
咬合面を削って、隣の歯より少し短くしてワイヤーで固定した。

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犬歯があると大助かり。もちろん無ければ他の方法で固定。見た目は良好。ワイヤーだらけ。

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剥がれた歯肉もチューブで圧迫。縫合。

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10日後。結構良さそう!

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一ヶ月後。無事にワイヤー除去。おめでとう!男前がもどった。

ウマの胃潰瘍は内視鏡検査をしないと分からない

ウマのなかで、胃潰瘍が最も多いのは競走馬だ。

80%とか90%とか言われるが、胃潰瘍かどうかは胃内視鏡検査をしてみないと分からない。
飼い葉食いが悪くても胃がきれいな馬もいる。
軽い胃潰瘍と思って検査をしたら、胃の粘膜がドロドロの馬もいる。
入厩時の検査で胃がきれいでも、一週間後にはドロドロになる馬もいる。
飼い葉減少、やせている、体重が減少、イライラする、ボロがやわらかい、ボロが黒い、このような症状があれば、胃内視鏡検査が必要。

乗馬では、競技馬やエンデュランスのウマにも胃潰瘍がある。

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正常な胃。粘膜はピカピカで白く、内視鏡検査では胃の中が明るく見える。
薄いピンク色の所が胃液を出さない無腺部。胃潰瘍になりやすい部位。下に見える赤いところが、腺部。胃液を出す部位。

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G2の胃潰瘍。このくらいだと相当痛いはず。イライラ、体重減少、飼い葉食わない、etc。

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G3の潰瘍。正常な胃粘膜がほとんどない。ウマは胃がかなり痛い。飼い葉食いは悪く、体重も落ちる。出血でボロが黒くなるウマもいる。
これじゃ、競馬も走らない。ガストロガードを2週間投与することで、ほとんどは完治する。しかし、 せっかく治っても追い切りやレースで再発する。
なりやすいウマはメーカー推奨の予防量では足りない。推奨量ではレースや追い切りで再発する。

 

Blind Wolf Teeth  隠れているやせ歯

やせ歯とは?第1前臼歯が退化した歯で、それがあるウマは少ない。
ハミがやせ歯に当たると痛いのでウマは調教中頭を上げたりすることが多い。
このウマは長い間、ハミを気にしていたが、口の中を見てもやせ歯がないので
誰も気づかなかった。レントゲンを撮ってみると、歯肉の中にやせ歯が隠れていた。
切開して取り出すと、長い間調教で気にしていたハミの問題が解消した。

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取り出したやせ歯はこんなに小さい。やせ歯は小さいほどウマが気にするようだ。
ハミを気にしているウマは、やせ歯が隠れていることもあるので、詳しい検査が必要です。

国際医用画像展に行って来ました

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毎年パシフィコ横浜で開催される国際医用画像展に、今年も行って来ました。レントゲン関係、エコー、MRI,CT,画像処理などの最新技術が展示されている。
ウマの獣医として気になっているのはもちろんDR。DR(Direct Digital Radiography)。
撮影をするとすぐにパソコンに画像が表示される。
往診先のその場で画像が確認できるので超便利なのですが、ベンツが1台買える値段。
人では野戦病院、災害時に使われている。
ウマでは10年くらい前からアメリカで普及してきたが有線でカセット、パソコン、レントゲン、それぞれがつながっていたので、使い勝手が悪かった。
日本では、昨年あたりからワイヤレス仕様が出てくると、一気に各社がそろえてきた。さすが日本の技術力。

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コニカのブース。AeroDR。

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DRの草分けCANON。他社に遅れてワイヤレスDRを発表。

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富士はFCRが今年30周年だそうだ。私も30年使った!
でも、DRが出たとたん、動物病院でしか売れなくなったらしい。
富士のDRはイメージャーがFCRのものを使えるので便利かも。
富士のDRの画像はやはりFCRと同様で、骨がエッジ強調されて一番きれい。
アメリカでは、ゼロラジオグラフィーの影響があるせいか、ウマでは
もっと強調した画像が好まれている。この方が、骨折見やすいね。
CANON,KONICAの担当者は知っている?富士のひとは知っていた。

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ネコちゃんも興味ある?富士のワイヤレスDRセット。

腸石が出た

13歳の乗馬。5日ほど前から疝痛だったらしい。
腸の動きは弱く、ボロもしていない。
HT44,HR54,乳酸値は1.3,TP6.8 。呼吸は荒い。でも具合はあまり悪そうではない。
直検をしてみると、驚いたことに指の先に固い物が・・・・。
どうやら、小結腸を通過して、直腸の入り口で腸石が詰まったらしい。オイルを飲ませると,翌朝1個出た。
再度直検してみる、また1個出現。もう一度オイルを飲ませる。また翌朝1個出る。
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けっこう大きい。良く、小結腸を通過したもんだ。腸石は扁平だと複数ある証拠。まだ、ありそうな感じ。

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3つ目でました。
最後が一番大きい!黒くて小さい石の周りも腸石の成分の色が付いている。
小さい石が核になって育つ証拠。
複数の大きい腸石があると腹の中で石がぶつかり合う音が聞こえることがあるらしい。一緒に歩いて聞いてみよう。

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1ヶ月前は、雪で真っ白だった浅間山。

バリカン君?

外傷の治療や手術でバリカンは必需品。THRIVEのバリカンは充電式で、良く切れるので重宝しているが、長い間使っていると突然切れなくなる。当たり前ですけど。
以前は刃をメーカーに送って研いでもらっていたが時間も費用もかかっていた。
最近みつけたのが、これ。ドロドロした緑色の液体を刃に塗って動かすだけ。
ちょっと怪しく値段も高かったが、使ってみたら良く切れる様になった。

素晴らしい!

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去勢は手術室で

 

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倒馬しての去勢は、覚醒のことを考えると手術室でやるのが圧倒的に楽である。
私たちは、キシラジン、ジアゼパム、ケタミンを使用している。
手術時間は数分なので、これらのコンビネーション 麻酔で十分な手術時間が確保できる。他に、トリプルドリップや高価なプロポフォールを使用する方法もあるが、どれも十分な鎮痛効果があるので、ウマにとってもあまり痛さは感じない。
一方、サクシンを使った方法もある。サクシンは筋弛緩剤のため、注射直後にウマは筋肉に力が入らなくなり立っていられなくなるため、あっという間に倒れてしまう。
この方法で去勢をすると、意識はあるがウマは動くことができない。
鎮痛作用は皆無なため、ウマはものすごく痛い。けれども動けない。非常に残酷な方法で、世界中でこの方法は禁止されている。
おまけに呼吸ができないため、酸欠でひどいチアノーゼになる。少しの量の違いで窒息死することもある。
作用は超短時間のため、手術後ウマはすぐに起立する。ミラクルのように見えるが、非常に残酷な方法である。今でも、やっているらしい!

以前TVで、特異体質で麻酔が効かない人が、意識があるなかで手術を受けたが、手術中筋弛緩剤を投与されていたので体は動かすことができず、手術中麻酔が効いていないことを眼だけでも伝えられずに体を切り刻まれていたという番組があった。
恐ろしい!ウマはそれと同じ状態。

種子骨々折のウマ

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調教中に骨折した種子骨。種子骨は血液供給が非常に少ない。
手根骨の板状骨折などと同様に骨折すると非常に治りが悪い。
おまけに種子骨は靭帯で上下から常に引っ張られているので更に癒合が遅い。
手術まで骨折の離開防止のためにキムジースプリントを装着した。

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今回はスクリュウを遠位、即ち下から上に向かって入れることにした。
キムジースプリントのお陰で、骨折はほとんど開いていなかった。
腸骨より海面骨を採取して、骨折面に埋め込んで、治癒を促進。

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今回は調教師の希望で、レース復帰が予定されている。
今後は、磁気治療やショックウェーブで早く治癒することを願うばかり。

馬の後肢の跛行と診断麻酔

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【この写真は別症例】

当クリニックでは,跛行診断で年間多数の診断麻酔をやっている。
さすがに後肢は少ない。
今回は再入厩時より左後の跛行が良くならず、
触診で異常が分からない競走馬に診断麻酔をすることにした。
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【本症例とは別のウマの神経ブロック】

競走馬の場合、跛行の原因のほとんどは、
前肢なら腕節以下、後肢なら飛節以下とされている。
これは世界の常識であるが、掟破りのウマ獣医は多い。特に日本では!
このウマは、触診、レントゲン検査では、どこも異常は無い。

最初に飛節の遠位の関節(足根中足関節)を麻酔するも跛行は変わらず。
次に外側踵神経をブロック。変わらず。

翌日、脛骨神経、腓骨神経をブロック。
速歩で跛行が半減する。これで、跛行の原因箇所が飛節以下とわかる。

検査3日目。
トレセンから牧場に出す前に原因を知りたいと、
調教師の強い依頼で飛節の残り2カ所に関節麻酔。
足根間関節でやっと跛行が80%近く消失。

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今回の症例は、調教師の強い希望で最後まで検査をすることができ、
原因箇所が特定できた。
跛行診断で診断麻酔を厩舎で実施する時は、原因をはっきりさせ、治療をし、
しっかり直してレースに使うという調教師の気持ちがないと、
時間をかけた診断、検査は出来ない。
難解な検査が獣医師のスキルアップにもつながる。

○○調教師ありがとう! 最後まで検査ができました。