繋靭帯炎の競走馬のエコー

春の大きなレースに出走した3歳サラブレッド。競走後に跛行し競馬場で
レントゲン検査を受けたが、骨には異常がなかった。跛行は左前だったが
トレセンに帰厩後はなおっていた。右前の屈腱部の皮膚に血管が走っているので、エコー検査を依頼された。始めに浅屈腱をスキャンするも異常はない。
次に繋靭帯をスキャンすると驚いた事に上から下まで真っ黒。
触診では、腫れも疼痛も感じなかったが、こりゃ重傷です。

IMG_2499分かり難いが、オレンジの線で囲ったところが繋靭帯。中心が黒く抜けている。
繋靭帯炎のエコー検査は慣れていないと結構難しいが、これなら誰でも分かるでしょう。
繋靭帯炎のエコー検査は特にフォーカスを繋靭帯にあわせて撮らなければ正確な診断は不可能。触診で分からなくても繋靭帯炎のウマは沢山いる!

第2趾骨粉砕骨折のウマ

今回の創外固定手術のウマは翌日より順調に馬房内を歩いていた。
体温が安定しない事が少し気がかりではあった。
術後41日目のレントゲン写真で下のピンが折れているのを発見。
体重が重いのと、外で少しだけ歩様をみたのが原因だろう。
ピンを2本とも抜くにはまだ早かったので折れたピンだけ抜くことにした。

IMG 0211
ピンの周囲だけギプスを除去し抜いた。

IMG 0207
49日目にギプスをはずして、上のピンも抜く。
今回はピンが破損したのと、ピン周囲がわずかに感染していたため
骨折線がまだ目立っていたが、骨への更なる感染を心配して抜く事にした。
幸い、ピンの抜去後は自然に穴が塞がり骨折も次第に良くなって来た。
なんとか、足がバラバラにならずに、治った。まだ立っている時は足を浮かしているが、歩きだすとちゃんと着いているので時間の経過とともに良くなって行くだろう。

IMG 0238
ギプスをはずした直後。皮膚はぼろぼろで出血もあり、見た目はすごい。
皮膚は健康なので、包帯の交換で、どんどんきれいになった。

P1190407 360度絶景

いわきの馬の温泉50周年

P1180879
7月2日、競走馬総合研究所常磐支所、通称馬の温泉が50周年を迎えた。
私が勤めていたときが30周年の時だったので、あれからもう20年がたってしまった。
歳とる訳だ!

P1180880
超久しぶりのため、50周年記念会場のハワイアンへもナビがないとどこだかさっぱりわからず。

IMG 0406
ハワイアンの会場入り口。入り口の自動ドアが反応せず、ちょっとあせる。

IMG 0408
理事長の土川さんも、支所長だったので、自ら祝辞。

IMG 0410
前回は立食だったが、今回はテーブルで食事。まわりは歴代の支所長や競馬会OB.皆さん異常に元気!
次回は80周年とか。30年後!もう生きていないね、こっちは。

IMG 0411
フラダンスもあった。加藤支所長のスライドによる歴史紹介もあり。なかなか良かったですね。最近の人は発表が上手。

P1180901
後方に見えるオレンジの花が咲いている木が30周年で私が選んだ記念樹、ざくろ。
手前が今回の記念樹:ユズリハ??実がならないのが残念。

P1180882
地震でにごり湯が、透明になった。にごり湯党の私にはちょっと残念。当時は 社宅もにごり湯で毎日温泉三昧だった。
毎日、温泉の質を身をもって確かめるのも所長の重要?な仕事。

第2趾骨複雑骨折の創外固定 

乗馬の後ろ足の第2趾骨が複雑骨折した。この部位は競走馬ではまず見られない。
乗馬特有の部位の骨折。ポロ競技馬にも多い後ろ足をひねる運動で起こる骨折だ。

この骨折では、バラバラすぎて第1、第2趾骨のプレートによる関節固定はちょっと無理。無理してやると蹄関節にズレが生じて痛みの原因になる。
1年ぶりの創外固定をした。今回は500kg以上の体重が心配された。案の定・・・・・。

IMG 0126
第2趾骨の外側はバラバラになっている。

P1180734
ピンを挿入するには、結構力が必要。2本とも一人でやるとヘロヘロ。足を持っている方が楽。

P1180738
やっとこさ2本のピンが入る。

P1180796
ピンをキャスト、パテで連結固定して完成。さあ、これからが大変!

ウマの胃潰瘍は内視鏡検査をしないと分からない

ウマのなかで、胃潰瘍が最も多いのは競走馬だ。

80%とか90%とか言われるが、胃潰瘍かどうかは胃内視鏡検査をしてみないと分からない。
飼い葉食いが悪くても胃がきれいな馬もいる。
軽い胃潰瘍と思って検査をしたら、胃の粘膜がドロドロの馬もいる。
入厩時の検査で胃がきれいでも、一週間後にはドロドロになる馬もいる。
飼い葉減少、やせている、体重が減少、イライラする、ボロがやわらかい、ボロが黒い、このような症状があれば、胃内視鏡検査が必要。

乗馬では、競技馬やエンデュランスのウマにも胃潰瘍がある。

IMGA0433
正常な胃。粘膜はピカピカで白く、内視鏡検査では胃の中が明るく見える。
薄いピンク色の所が胃液を出さない無腺部。胃潰瘍になりやすい部位。下に見える赤いところが、腺部。胃液を出す部位。

IMGA0419
G2の胃潰瘍。このくらいだと相当痛いはず。イライラ、体重減少、飼い葉食わない、etc。

IMGA0418
G3の潰瘍。正常な胃粘膜がほとんどない。ウマは胃がかなり痛い。飼い葉食いは悪く、体重も落ちる。出血でボロが黒くなるウマもいる。
これじゃ、競馬も走らない。ガストロガードを2週間投与することで、ほとんどは完治する。しかし、 せっかく治っても追い切りやレースで再発する。
なりやすいウマはメーカー推奨の予防量では足りない。推奨量ではレースや追い切りで再発する。

 

Blind Wolf Teeth  隠れているやせ歯

やせ歯とは?第1前臼歯が退化した歯で、それがあるウマは少ない。
ハミがやせ歯に当たると痛いのでウマは調教中頭を上げたりすることが多い。
このウマは長い間、ハミを気にしていたが、口の中を見てもやせ歯がないので
誰も気づかなかった。レントゲンを撮ってみると、歯肉の中にやせ歯が隠れていた。
切開して取り出すと、長い間調教で気にしていたハミの問題が解消した。

P1180390

 

IMG 0053
取り出したやせ歯はこんなに小さい。やせ歯は小さいほどウマが気にするようだ。
ハミを気にしているウマは、やせ歯が隠れていることもあるので、詳しい検査が必要です。

国際医用画像展に行って来ました

IMG 0058
毎年パシフィコ横浜で開催される国際医用画像展に、今年も行って来ました。レントゲン関係、エコー、MRI,CT,画像処理などの最新技術が展示されている。
ウマの獣医として気になっているのはもちろんDR。DR(Direct Digital Radiography)。
撮影をするとすぐにパソコンに画像が表示される。
往診先のその場で画像が確認できるので超便利なのですが、ベンツが1台買える値段。
人では野戦病院、災害時に使われている。
ウマでは10年くらい前からアメリカで普及してきたが有線でカセット、パソコン、レントゲン、それぞれがつながっていたので、使い勝手が悪かった。
日本では、昨年あたりからワイヤレス仕様が出てくると、一気に各社がそろえてきた。さすが日本の技術力。

IMG 0064
コニカのブース。AeroDR。

IMG 0066
DRの草分けCANON。他社に遅れてワイヤレスDRを発表。

IMG 0061
富士はFCRが今年30周年だそうだ。私も30年使った!
でも、DRが出たとたん、動物病院でしか売れなくなったらしい。
富士のDRはイメージャーがFCRのものを使えるので便利かも。
富士のDRの画像はやはりFCRと同様で、骨がエッジ強調されて一番きれい。
アメリカでは、ゼロラジオグラフィーの影響があるせいか、ウマでは
もっと強調した画像が好まれている。この方が、骨折見やすいね。
CANON,KONICAの担当者は知っている?富士のひとは知っていた。

IMG 0036
ネコちゃんも興味ある?富士のワイヤレスDRセット。

腸石が出た

13歳の乗馬。5日ほど前から疝痛だったらしい。
腸の動きは弱く、ボロもしていない。
HT44,HR54,乳酸値は1.3,TP6.8 。呼吸は荒い。でも具合はあまり悪そうではない。
直検をしてみると、驚いたことに指の先に固い物が・・・・。
どうやら、小結腸を通過して、直腸の入り口で腸石が詰まったらしい。オイルを飲ませると,翌朝1個出た。
再度直検してみる、また1個出現。もう一度オイルを飲ませる。また翌朝1個出る。
IMG 0303
けっこう大きい。良く、小結腸を通過したもんだ。腸石は扁平だと複数ある証拠。まだ、ありそうな感じ。

IMG 0317
3つ目でました。
最後が一番大きい!黒くて小さい石の周りも腸石の成分の色が付いている。
小さい石が核になって育つ証拠。
複数の大きい腸石があると腹の中で石がぶつかり合う音が聞こえることがあるらしい。一緒に歩いて聞いてみよう。

IMG 0314
1ヶ月前は、雪で真っ白だった浅間山。

去勢は手術室で

 

IMG 0007

倒馬しての去勢は、覚醒のことを考えると手術室でやるのが圧倒的に楽である。
私たちは、キシラジン、ジアゼパム、ケタミンを使用している。
手術時間は数分なので、これらのコンビネーション 麻酔で十分な手術時間が確保できる。他に、トリプルドリップや高価なプロポフォールを使用する方法もあるが、どれも十分な鎮痛効果があるので、ウマにとってもあまり痛さは感じない。
一方、サクシンを使った方法もある。サクシンは筋弛緩剤のため、注射直後にウマは筋肉に力が入らなくなり立っていられなくなるため、あっという間に倒れてしまう。
この方法で去勢をすると、意識はあるがウマは動くことができない。
鎮痛作用は皆無なため、ウマはものすごく痛い。けれども動けない。非常に残酷な方法で、世界中でこの方法は禁止されている。
おまけに呼吸ができないため、酸欠でひどいチアノーゼになる。少しの量の違いで窒息死することもある。
作用は超短時間のため、手術後ウマはすぐに起立する。ミラクルのように見えるが、非常に残酷な方法である。今でも、やっているらしい!

以前TVで、特異体質で麻酔が効かない人が、意識があるなかで手術を受けたが、手術中筋弛緩剤を投与されていたので体は動かすことができず、手術中麻酔が効いていないことを眼だけでも伝えられずに体を切り刻まれていたという番組があった。
恐ろしい!ウマはそれと同じ状態。